【書評/感想】恋文の技術
京都を舞台にした青春小説の書き手である森見登美彦氏の、文通をテーマにした小説である。主人公はなんとなく大学院に進学したボンクラ大学院生で、読者の中にはしたくもない共感を抱いた人が少なからずいるのではないでしょうか。
研究室の教授の計らいで、能登半島の海沿いにある研究所に島流しに遭うところから物語は始まる。今回の舞台は能登半島なのです。実際は京都にいる知人・友人と文通するので京都小説らしさは健在ですが。
この小説の印象深いポイントは3点です。
- 手紙の形式でも魅力的な物語が成立していたこと。
- まっさらな気持ちを伝えることの難しさ。
- 読後、誰かに手紙を書きたくなること。
この小説は基本的に会話がありません。主人公との手紙のやり取りを通じて物語が進行するので、ある出来事に対して一方的な文章を書き、それを送り、相手の反応があり、またそれに手紙を書くという形式で話が進みます。
登場人物が魅力的なこと、またそれら人物の人間性が垣間見える手紙の内容が物語の深みを増していたように感じます。文通を通じて、自分を見つめ直していく主人公。また研究に悩み、就活に悩む姿は、かつて大学生だった自分を見ているようでいたたまれない。過去の自分をターミネートしてやりたくなる。
最後に書かれた、主人公の手紙の透明感は、必見。
きっとあなたも誰かに言葉を届けたくなるはず。
「俺にはエントリーする能力が根本的に欠けているのだと思います。このまま手をこまねいていては、人生にエントリーできなくなる」